月影に舞う夢。

2003年8月8日
 夕暮れの風が運ぶ音に、心をさらわれた日。

 樹羅は静かに、そこに佇んでいる……。

「心の扉を開いて。

 昔と変わらぬままの部屋。白いカーテンごしに見えるのは、冷たい夜に浮かぶ白銀の月。

 繰り返し、繰り返し、止まらないピアノの音色。まるで、何度でも広げてはしまう記憶のように。

 まだ、始まらない何かを、見ている。

 ここではない何かを、映している。

 小さな部屋で、窓の外の中庭を、月を、見ている。
 階下の店の喧騒も、表の騒音も、昼間のことも忘れてしまうほどに。

 見るたびに月は変わる。やわらかな金色であったり、冷たい鏡のようであったり。

 沈まない、月。
 追憶という草原を照らす道標のように。
 
 不意に音もなく窓は開く。月明かりが部屋に満ちる。

 重なる音楽。言葉もなく織られていく物語。束の間の幻想。

 繰り返し、繰り返し、月は何度でも空にかかり、私の瞳を照らす。

 胸の中が、暖かくなるまで。

 やがて、音色は止まる。
 ピアノの蓋を閉じる時がくる。

 そして扉は、月影で眠るのだ……。」


 夕暮れは、在りし日の扉を開く。

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